五島弾丸ツアー
1
Kが五島の教会群を見に行きたいと言ったので、旅行の計画を立てることにした。本来なら五、六泊して見て回りたいところだが、彼女にそれだけの時間的余裕がなく、最短の行程を考えた。その頃、土日に高速道路をどこまで走っても料金が一回千円という施策が実施されていた。それを利用することにして、土曜日の朝に長崎に着き、日曜の夜に長崎を離れることにした(少しの時間でも土日にかかれば割引料金が適用される)。長崎港近くの駐車場に車を置き、ジェットホイルで五島の福江へ。レンタカーで福江島を巡り、その日のうちにジェットホイルで中通島の奈良江へ。別のレンタカーで新魚目の「国民宿舎しんうおのめ温泉荘」に行き宿泊。翌日は中通島を巡り、奈良江からジェットホイルで長崎へ。そういう綱渡りのような行程である。駐車場、ジェットホイル、レンタカー、宿は予約しておく。
2
2009年6月5日(金)の午後7時ごろ宝塚を出発、中国道、九州道、長崎道を走って6日(土)午前5時ごろ長崎港に着いた。夜は雨のところもあったが、曇り空ながら雨の心配はなさそう。フェリーターミナル近くの駐車場に車を預けて、7時40分発のジェットホイルに乗る。長崎港を出るまでは船体を浮上させずにゆっくりと航行し、その後高速航行に移るが、窓からは遠くの海面しか見えないのでスピード感はない。9時5分福江港に着く。
レンタカーを受け取り北上、最初に浦頭教会へ。道路脇の小高いところに建っている比較的新しい教会だ。白亜のモダンな建物である。
いくつもの教会を訪ねたので、内部については記憶がごっちゃになってしまった。どの教会もほぼ同じような造りであり、共通したところを記しておく。扉には鍵がかかっていない。入るとタタキがあり、そこで靴を脱ぐ。入口の壁の左右には聖水入れがある。貝を利用したところもある。スポンジが入っていることも。建物の中には列柱が二列あり、身廊と両側の側廊を分けている。天井は側廊の方がやや低い。いわゆる「こうもり天井」(リブ・ヴォールトと呼ばれるアーチ状の天井)になっているところもある。中央の通路の両脇に椅子が祭壇に向かって並べられている。祭壇の中央にはイエス像か十字架、左右にはマリア像とイエスまたはヨゼフの像。入口の上には二階席がある。左右の壁にはステンドグラスの窓が並び、祭壇の壁と二階席の壁にステンドグラスの窓があるところも。左右の壁には「苦難の道」(キリスト処刑までの14の場面)がレリーフなどで表現されて並んでいる。祭壇には百合などのきれいな花がたくさん活けてある。協会の周りや集落に花が多いのは献花用なのかもしれない。祭壇の両方あるいはどちらかに三つの数字を表示する装置があるところが多く、曽根教会にいた人に聞くと、讃美歌の番号を示すそうだ。
2番目に堂崎教会へ行く。ここは観光施設になっていて、受付の女性に入場料300円を払う(有料なのはここだけだった)。外観はレンガ造り、屋根は瓦葺である。内部は資料展示場になっている。傍に郷土資料館(有料)があり、使われなくなった日用品が並べてある。教会は湾のようになっているところにあり、そのときは水がだいぶ引いていた。岬のようにもなっていて、反対側の海も見える。
3番目は宮原教会。集会所のようなところで高齢の女性に場所を教えてもらう。集会所のすぐ後ろだった。民家風の小さな教会。
次に半泊教会を探して狭い道を行くが見つけられず引き返す。
4番目は水の浦教会。白い壁に二段になった瓦屋根の美しい建物(木造)。屋根の上には十字架のある小さな塔が乗っている。中にいるときに鐘が鳴った。正午である。出てみると、教会の前の火の見櫓のような塔の鐘を尼僧が鳴らし終わったところだった。あいさつをする前に彼女はどこかへ行ってしまった。教会の隣には改修中らしい建物があり、修道院らしい。中に人はいないようだった。教会の背後の小さな丘には道がつけられ花が植えられてある。丘の上には墓がある。
打折教会近くの道には新しくトンネルが作られていて、通り過ぎてしまう。道の駅「遣唐使ふるさと館」で昼食。三井楽教会への道は狭そうであり、道の駅にあった写真をみるとモダンな感じの建物なので省略することにした。
5番目は貝津教会。白く塗られた板壁、瓦屋根に小さな尖塔のある素朴な建物。
6番目は井持浦教会。レンガ造りを模したコンクリート造りの堂々とした建物。ここにはルルドの泉を模したものがあるが、洞窟には水がなく、近くに蛇口がある。教会の中で水入りのペットボトルを売っていた。
ここから福江方面に戻る。来るときに見かけた高浜海水浴場に寄ってみる。観光バスが停まっていて、乗客が浜にいた。きれいな砂の遠浅で、水も澄んでいる。ゆっくりしたいが、先を急ぐ。
7番目は楠原教会。水の浦教会の近くだが、来るときには寄らなかった。下五島に現存する教会としては堂崎教会に次ぐ二番目に古い教会。ゴシック様式のレンガ造り(瓦葺)の立派な建物。側面は二段になっていて、上部の壁は白く塗られた板張りのようだ。
8番目は福江教会。福江の街中にあるモダンで大きな建物だ。
給油してレンタカーを返し、16時40分のジェットホイルで中通島へ。奈良尾17時着、レンタカー会社の迎えの車で営業所へ。車を借りるとき、狭い道があると脅かされる。借りた車には方々に細かい傷がある。明日は島の南部でトライアスロン大会があり、交通規制がなされるとのこと。
今日の宿のある新魚目に向かう。途中いくつか教会があるが、海に面した中の浦だけによる。
9番目は中の浦教会。白く塗られた板張りの壁、尖塔のある二段になった瓦葺の美しい建物が水辺にある。駐車場に複数の車があり、人々が集まってきている。教会の中ではミサらしいことが行われている。入口からのぞくと、中にいる女性は白いベールをかぶっている。中には入らずに引き上げた。
その日は国民宿舎しんうおのめ温泉荘に泊まる。
3
7日(日)9時ごろ宿を出て、細く伸びた島の北部(津和崎)を北上する。この島は教会の案内標識が整備されていて分かりやすい。
10番目は曽根教会。白く塗られたコンクリートの壁と赤い瓦の切妻屋根。四角い塔が端についている。入口が箱状に飛び出ていて、その上に無原罪のマリア像がある。高台にあって東に有川湾、西には東シナ海を一望できるらしいが、見損ねた。信者がたくさん来ていたが、ミサが終わったらしくみな出てきた。男の人が一人残って後片付けをしていた。
11番目は大水教会。赤瓦の切妻屋根と白いタイル壁。
12番目は小瀬良教会。脇道を登った山の中腹にある。白い板壁に二段になった赤瓦屋根の小さな建物。
江袋教会は2007年に焼失のため再建中だった。
13番目は赤波江教会。やはり脇道を登った山の中腹(というより崖の中程)にある。白壁と赤い瓦屋根、尖塔の赤い三角屋根が特徴。前庭にはヨゼフの像と、鐘を釣った四角い柱がある。目の下が海で視界が広がり、小さいながら津和崎の先端からでもこの教会が見える。 畑の手入れをしていた女の人に声をかけて中に入る。三人の女性が静かにすわっていた。ロザリオをいじっている人もいたので、何ごとかを祈っていたのだろう。
14番目は仲知教会。赤壁のモダンな建物。ステンドグラスの絵が美しい。
15番目は米山教会。白い四角い建物にアンバランスに大きな白い長方形の塔がくっついている。塔の上部は円弧を描いている。小さいが特徴ある形だ。
この先にはもう津和崎の突端だ。椿の林を上がったところに小さな灯台がある。狭い海峡の向こうに野崎島。小賀値島や宇久島も見える。ここから奈良尾へ、途中にある教会を訪ねつつ引き返す。
16番目は青砂が浦教会。改修中のため足場が組まれていたが、中には入れた。赤レンガに二段瓦屋根、内部は三廊式とこうもり天井という典型的な形だ。
17番目は冷水教会。白い板壁、赤瓦屋根の、これも小さな教会の標準的な造りである。
18番目は青方教会。二階建てになっているコンクリート造りの大きな建物。
この辺りで食事ができるとレンタカーの営業所で聞いていたが、探すのが面倒なのでたまたま見かけたスポーツ施設のレストランで昼食にする。電器会社の展示会をやっているようで、その会社のロゴ入りのジャンパーを着た人が交代で食べていた。
19番目は大曽教会。ちょっと迷ったが、小さな港に面した高台にあるのを見つけた。そこに到る道路はあるようなのだがどこから入るのか分からない。海岸沿いの道路に車を停めて案内表示のある階段を上る。レンガ造りの重層屋根形式。四角い塔の上の八角形のドームが印象的。この教会は小さな湾の反対側からよく見える。
20番目は頭ヶ島教会。中通島が東へ伸びている先の小さな島(頭ヶ島)にあって、ちょっと離れている。島には空港ができたので橋が架かっている(いまは飛行機の便はないようだ)。教会の駐車場にはキリシタン墓地の標示があった。きれいに花の植えられた道を通って教会へ。小さいが石造りの重厚な建物。屋根は赤瓦。四角い塔とその上の八角ドームは大曽教会に似ている。内部は、列柱はなく、身廊部分は船底のような折上天井。花の模様があちこちにある。
時間が無くなったので、跡次教会、真手ノ浦教会、若松大浦教会が384号線沿いにあるけれども省略する。連なったパトカーや白バイとすれ違う。トライアスロン大会が終わったのだろう。
海辺の中ノ浦教会にはもう一度寄ってみる。木造の白壁に二層の瓦屋根の美しい建物である。四角い尖塔の上のとんがり屋根は落ちついた灰色。内部は、列柱はあり、身廊の天井は頭ヶ島教会と同じような折上天井、祭壇部分のみこうもり天井になっている。列柱の上部の壁には大きな椿の花のような装飾がある。
21番目は高井旅教会。見る予定ではなかったのだが福見教会と間違えてしまった。白壁、切妻の瓦屋根の小さな建物に、アンバランスに大きな四角い尖塔を付けたようになっている。尖塔の上のとんがり屋根だけが赤い。
22番目は福見教会。レンガ造り二段瓦屋根のオーソドックスな様式。内部は格組折上天井になっている。
福見教会を最後としてレンタカーの営業所に行き、そのままその車で港まで送ってもらう。17時05分のジェットホイルに乗り、長崎着18時20分。
五島のドライブは海岸沿いの木々の繁った道を走ることが多かった。特に中通島の北部は海を見下ろす切り立った海岸の道で、木々の緑と海の青が眼前に展開して(空は鈍い色だったが)、遠い世界へ来たという感じがする。木々は常緑樹が多いようで、南国といってもいいような雰囲気。ところどころに群生したアジサイの花が咲いている。百合の花も多い。家々は斜面に建ち、小さな畑が点在する。いかにも迫害を逃れてくるような辺鄙なところだと思わせる。それなのに心が癒されるように感じるのはなぜなのだろう。
駐車場から車を出して来た道を引き返す。途中仮眠や休憩や食事をしながら高速道路を走る。Kを京都まで送って、宝塚に帰ったのは8日(月)の午前11時ごろだった。走行距離約1,650km(除く五島内)。