井本喬作品集

誰でもする遭難2(北八ヶ岳)

 蓼科山で遭難しかかったことがずっと気になっていたので、2013年8月19日に再度行ってみた。一体どこでルートを間違ったのか、山頂ヒュッテは頂上からは見えないのかといった疑問を解くためと、ついでに横岳とつなげて歩いてみたかったのである。未明のうちに家を出て、大河原峠に着いたのが9時。平日にもかかわらず登山者の車が多い。将軍平までは前とは違ったルートだが、将軍平からは記憶のある岩だらけの急登だ。他の登山者たちに混じって頂上を目指す。ルートは頂上直下で左(南)の方にトラバース気味になる。前のときは、ロープに導かれて雪渓を直登したので、この辺りでルートを外れたようだ。登山道は山頂ヒュッテに通じている。頂上はその少し上だ。頂上の標識のところからはヒュッテの屋根が見えた。あのときはガスで見えなかったのだと納得した。位置関係さえ分かっていれば、簡単にたどり着けただろうに。だだっ広い円形の台地上の頂上は、晴れていれば方向を見失うようなことはない。しかし、岩だらけなので踏み跡はないに等しく、ガスの中ではいかにも迷いそうである。

 将軍平に戻り、右折して天祥寺原へ下る道をとる。こちらには誰もいない。いままでの賑やかさに比べて寂しさを感じるほどだ。それでも天祥寺原から亀甲池まででは何人かとすれ違う。横岳への登りでは三十人ほどの団体とすれ違った。ここを登る人もいるのだと珍しがられたから、下りに使う人がほとんどのようだ。横岳北峰に着いたのは3時を過ぎていた。ここでミスに気づいた。

 予定していたのはコースタイムで7時間半の周回ルートである。時間は縮められるだろうから、4時には車のところへ戻れるだろうとタカをくくっていた。ところが、確認してみるとここから双子池を経由して大河原峠まではあと3時間もかかることになっている。縮めるどころかコースタイム以上に時間がかかり、休憩時間もまるまる上乗せになってしまっていたのだ。安全を考えれば、坪庭へ下りて、北八ッ岳ロープウェイで下山すればよい。大河原峠に停めた車はタクシーで取りに行ける。

 しかし、夏の日は長いから6時でもまだ明るいだろうし、急げばもっと早く着くだろうと考えて、予定を変えなかった。そこから双子池までの道は難路だった。ずっと岩を乗り越え続けていくような道だった。時間を縮めるどころではない。双子山に登り返したときには夕日が沈みかけていた。大河原峠に着いたのは6時15分。もちろん、途中で誰にも会わなかった。こんな無茶をすれば遭難の確率は高くなる。置いてきた車にこだわって臨機応変な対応をとることができないなんて愚の骨頂だ。それでもあえてしてしまう。やはり遭難というのは誰にでも起こる可能性あることだと改めて思った。

 それにしても、八ヶ岳の登山はどうしていつもうまくいかないのだろう。天狗岳から北八ッを縦走しようとしたときは残雪に阻まれ白駒池で断念した。清里から赤岳に登ったときはバテてしまって夏沢峠まで行くのは諦めた。そして、前回と今回だ。八ヶ岳は私にはついていない山だ。

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