八方尾根
八方尾根にはスキーで何度か行ったことがある。ゴンドラとリフト2本を乗り継げば八方池山荘まで登ることができる。そこから麓までいくつかのゲレンデを経由して滑っていくのは爽快だ。ゴンドラやリフトは夏場にも動いているので、八方池までのトレッキングや唐松岳登山に利用できる。山荘直下の黒菱ゲレンデまでは車でも行け、そこからならリフト2本で山荘まで登れる。
私の持っていたガイドブックには八方池と背後の不帰の嶮の迫力ある写真があり、実際にその風景を見てみたいとずっと思っていた。しかし、八方池だけへの往復では登山としては物足りないので、実行をためらっていた。八方池からさらに八方尾根を登っていけば唐松岳に至る。唐松岳は後立山縦走の際に登ったことがある。縦走途中の山という印象が強く、単独の登山の対象にするほどの山とは思えなかった。
だが、年齢による体の衰えが進み、厳しいコースは敬遠せざるを得なくなった。そのため、八方池を見て唐松岳を登るというのが魅力的なプランになってきた。ただし、日帰りピストンにするとしても、現地までは時間がかかる。夜に出て夜に帰るのはきついし、泊まるとすれば一か所だけではもったいない。そこで、涸沢の紅葉見物とセットにすることにした。
2013年10月6月の夜に車で出発し、東海北陸道経由で高山から沢渡へ。沢渡のバスターミナルの駐車場で仮眠。7日の朝に上高地行きのバスに乗り、上高地から涸沢までピストンする。紅葉は見頃だった。沢渡に戻り、車を走らせて安曇野の宿で泊まる。
翌8日朝、6時に宿を出て白馬へ、黒菱林道を登り7時半前に黒菱駐車場に着く。既にリフトは動いていた。ここからでも白馬岳が見える。準備をして7時50分ごろ最初のリフト(黒菱第3ペア)に乗り、黒菱平へ。鎌池の植物は枯れていた。次のリフト(グラートクワッド)で八方池山荘へ。左方(南)にはガスがあったが、右(北)に白馬がよく見えた。木道ではなく登山道を登る。鹿島槍がガスの上に見えてくる。正面の丘が八方山らしく石神井ケルンがある。ケルンはいくつもあって、その先のトイレの上方に第2ケルンがある。白馬、不帰は圧倒的なボリュームだ。五竜方面は山蔭に入って見えなくなる。さらに登ると立派な八方ケルン。ここから振り返ると雲にかかった東方の山々の峰がいくつか見える。ガイドが引率の一団に説明していた。高妻、乙妻、火打、焼山が見えているらしい。その上で道は二つに分かれ、左は稜線を行き、右は木道を下って八方池に至る。右の道を取り、八方池に着く。八方池を回る道は右(北)回りになる。しかし、立ち入り禁止の表示とロープがあるにもかかわらず、左へショートカットする不心得者がいる。
池の北側は丘になっていて、池と反対側の紅葉がきれいだ。白い雲が谷を埋め、その上に白馬と不帰の嶮の堂々とした姿。ぐるっと回って池の南側に行き、八方池に山の姿が映るのを見る。正面で映るのは天狗尾根と白馬三山。不帰の嶮は東側に寄らないと映らない。
ガスが出てきて風景を隠し始めたので、池を離れてさらに登る。少し先にいわゆる「下の樺」があり、ダケカンバの黄色とナナカマドなどの赤がきれい。道が左斜面になって、今度は「上の樺」。八方尾根の紅葉は期待していなかったので、思わぬ恵み。雪渓に出て少し登ると林を抜けてハイ松帯。幅広い石だらけの道を登っていくと、右手の小高いところにケルンのようなものが見える(丸山ケルンだったようだ)。追い抜いた中年男性が声をかけてきたので、同行のようになりいろいろ話をする。以前は大阪に住んでいたが、今は地元にいてよく山に登っているらしい。彼が富士山が見えたと言ったので、見晴らしのよいところで振り返ると、八ヶ岳の隣に見えた。南アルプスも見える。
男性1人女性3人のグループに追いつき、私たちと合わせて6人がつかず離れず登っていく。右側が開けたところに出ると、白馬、不帰が目前に。道は左へ回り、今度は五竜が大きく見える(鹿島槍は隠されてしまったようだ)。ここで他の5人を引き離した。左側が切れたトラバース気味の道だが、よく整備されている。一か所桟道があった。右に回り込むと唐松小屋がすぐそこに見えた。小屋の前からは剣が真正面だ。右に見えるピークが唐松岳なので、そのまま登り続ける。
11時過ぎに唐松岳登頂。北、西、南の山々が一望。白馬、不帰の山々は側面から重ねた形でみることになるが、迫力満点だ。剣・立山の隣に意外に小さく薬師。五竜はとてつもなく大きい。五竜にあやうく隠れかかって槍・穂も見える。下方に黒部湖がほんの一部だけ見える。北方かなたに海が見える。東方は雲が地平をおおい、はるかに山の頂だけが見える。台形の山は妙高かと思ったが高妻・乙妻のようだ。その右にあるなだらかな山は浅間。そして八ヶ岳、富士山、南アルプス。
頂上に一人いた男性と話をしていると、次々と人が登ってきた。その中の一人の女性が寄ってきて、「私には剣は無理でしょうか」と言って話に加わる。スゴ乗越から薬師を越えることが話題になり、女の人は読売新道の経験を話す。雲ノ平小屋が新しくなったそうだ。山々を同定しているうちに、針と蓮華らしきものを見つけた。
途中一緒だった男性がようやく登ってきた。小屋で食事をし、ビールを飲んだとのこと。こんなによい眺望はめずらしいと言う。去り難かったが12時前に下山開始(食事は栄養ブロックで済ませていた)。ガスが上がってきていて、ガスの中に入る。早い速度で下ってくる人がいて何人かに抜かれる。登ってくる人もまだまだいる。
登山道に寝ている女性がいたので声をかけると、夜行できたので眠くなってしまった、しばらく眠れば大丈夫と答えたので、そのままにしておく。
八方池まで戻ってきた。第3ケルンのある稜線の道を取る。池は見えるが、白馬、不帰はガスの中。観光客が結構いるが、期待した景色が見られず、残念だろう。午後はガスが出やすいのだ。
木道コースを下る。滑り止めの桟が歩幅と合わず歩きにくい。八方池山荘の下方にある第1ケルンに寄ってから、リフトで駐車場へ帰る(14時ごろ)。黒菱林道を下り、毎月8日は半額になる第一郷の湯に入ってから、帰路につく。