再訪の山4(大日岳)
奥美濃の大日岳にはもう一度行ってみたいとずっと思っていた。前に登ったのは1988年である。登山口の桧峠まで車で行ったのだが、東海北陸道はまだ出来ていなかったので、当然尾張一宮から156号線を北上したはずだ。桧峠に着いたのは正午近くになってしまったと思う。冬枯れの景色の中を歩いたような気がしていたのだが、調べてみると7月であった。いまにも雨の降りそうな曇天だったようだ。南側が切れ落ちた断崖沿いの道を歩いた記憶があるが、戸隠山とごっちゃになっていたかもしれない。
大日岳の近辺は、ひるが野や石徹白に遊びに行ったし、スキー場を利用することもあったので、馴染みのないところではない。しかし、登山だけで行くのは遠く、山の格として、アプローチの距離を無視できるほどのクラスではないから、再度登る機会はなかなか作れなかった。
それが、今年(2015年)は再訪できた山がいくつかあって、この際大日岳もやってしまおうという気になった。早朝出発に馴れてきたせいもある。以前は朝に弱くて、どうしても出発が遅くなってしまう。歳を取ったせいか、早起きが前ほどつらくない。大日岳ならば、早く家を出れば、無理をしなくても日帰りが可能だ。
唯一心配なのは気温だった。11月になれば降雪のおそれがある。何と言ってもスキー場のある山なのだから。ウェブで調べてみると既に白山は積雪している。スキー場も11月初めの連休からオープンするらしい(もっとも人工雪だが)。ところが、天気予報で11月3日~6日は晴れ、日中温度も上がるとのことだったので、出かけることに決めた。大日岳の登山ルートは、桧峠からの南側ルートの他に、ひるがの高原からの北側ルートと、スキー場(ダイナランド・高鷲スノーパーク)からの東側最短ルートがある。むろん、前と同じ桧峠からのルートにする。
2015年11月4日、3時半頃に家を出て、名神、東海北陸道で白鳥ICへ。途中、長良川SAで朝食と休憩。やはり肌寒い。156号線を少し北上、石徹白への分岐へ入る。山は紅葉の真っ盛りだ。桧峠に着いたのは8時半頃。大日岳登山口の標識がある。前にはここに峠の茶屋のような店があり、その建物の裏を回って登って行った記憶があるが、今は何もない空き地になっている。他に車はない。
林の中の陰気な道に入っていくと、左手に藪をはさんで建物が見える。ウェブではウイングヒルズ白鳥リゾートのゲレンデを登るという紹介記事が多かったので、もっと上の方に登山口があるのかもしれないと疑り出した。引き返して車を動かす。桧峠は十字路になっていて、真っすぐ行くと石徹白へ、左折するとゴルフ場、右折すると入浴施設があるらしい。右方へ行って、入浴施設のガラ空きの駐車場に車を止めたが、登山口がどこか、第一それがあるのかないのか分からない。まだオープン前の建物の中へ入り、従業員の青年に聞くと、親切に教えてくれた。桧峠からの登山道で正解なのだが、ここからもその道に入れるとのこと。施設の背後にあるゲレンデから登山道に入る。林の中を登って行くと、すぐに先程のゲレンデに出た。ゲレンデの中についている道筋に従ってひたすら登る。晴れていて風はなく、シャツだけでも汗をかくほど。後で調べると、このゲレンデはスキー場の一番右端にあり、クルージング・コースという名がついていて、てっぺんのゴンドラ駅まで続いている。振り返ると下方の眺望が開け、向かいの山にゴルフ場が見える。急な斜面に作られていて、冬にはそこもスキー場になるようだ。さらに登って行くと、男の人が二人、草刈り機でゲレンデの端の笹を刈り取っていた。ようやくゴンドラ駅に着く。
前に登ったときはこのスキー場はなかった。ここがオープンしたのは1990年らしいから、その二年前になる。そのときはもう工事をしていたのかもしれないが気がつかなかった。元の登山道も最初から急登だったが、ゲレンデによって消失してしまったのか。ゴンドラ駅から笹の中に道がついていて、少し登ると尾根をたどるようになる。古いガイドブックには、最初のピークは弥陀が洞山とあるが、その標識はこの先のルート上には見当たらなかった。木の間から前方になだらかな稜線が見える(後から大日岳だと分かった)。
道が登りになってしばらくして、水後山に着く。北側が藪になっているが、他は見晴らしがよい。雲が低く頭上を覆っていて、行く手の山頂にかかっている。ここからは南斜面が笹原になり、ルートが見通せる。手前に目立つピークがあるので、まずそれを目指す。馬の背のような稜線を行くのだが、左手は樹木が見通しを悪くしていて、右手だけが切れ落ちている感じだ。ときおり左手(北方)に雪をかぶった白山が見える。
かなりな登りなので、この上が山頂かとも思うが、かかる時間が短すぎる。登りきってみると、そこは鎌が峰だった。ここからルートはいったん大きく下って、登り返さねばならない。コルの向こうの大きな盛り上がりのてっぺんに三つの小さなコブが並んでいるのが頂上だろう。
ちょっとしたアップダウンがいくつかあったが、そんなに時間はかからなかった。頂上には男性二人組と中高年の夫婦がいた(11時半頃)。ここまで誰にも会わなかったが、平日とはいえある程度知名度のある山だ、登山者は来ている。彼等は東側の最短ルートから登ったらしく、私が着くとすぐ来た道を降りて行った。一人になって、ゆっくりと眺望を楽しむ。上空は晴れ出して来て、わずかな風があるだけだが、歩くのをやめるとやはり少し寒い。
円形の眺望図があったので山を同定してみる。白山と別山はほぼ同じ大きさで並び、雪の白さは白山の方が濃い。別山の左隣の三つコブの山は三の峰だ。三の峰には雪はない。三つのピークからなる三の峰の形は特徴的で、だからそういう名がついたと考えたくなる。はるか東北方には雪をかぶった頂きが連なっている。北アルプスだが、山々を区別するのは難しい。少し離れた右側の雲の中にやはり雪をかぶった乗鞍。さらに右に視線を移すと、白いクリームを塗られたケーキのようなテーブル状の御岳が雲の上に出ている。その他の山は特徴がつかめずよく分からない。眼下にはひるが野高原が広がっている。ひるが野からの登山道の方から人声がしたが、姿は見えない。
昼食を済ませ、12時10分下山開始。晴れ上がって絶好の日和になる。登るときは湿った黒い土がすべりやすく、下りはやっかいそうだと思ったが、ほぼ乾いていた。鎌が峰の頂上では男二人女一人の若いグループが食事を作っていた。水後山への下りから振り返って見上げると、標識の棒の横に先程のグループの誰かが立っているのが小さく見えた。この辺りからも乗鞍と御岳が遠望できる。登ってくるときには雲に隠されていたのだ。水後山を越えた下りで、今から登ろうとする単独行の男の人と、天気や眺望のことなど少し会話をする。ゲレンデに出てからの長い下りは陽を浴びてまぶしい。ゲレンデ脇の笹の葉が光っている。駐車場着14時15分。
朝世話になった若者が業者らしい人と話をしているので礼を言った。そこの満天の湯という風呂に入る。露天風呂からはゲレンデが見える。夜は星がきれいだろう。帰りは158号で福井へ出た。