アカヤシオ(国見岳)
2016年4月26日、直近の熊本地震など世の中多事多難だが、そのことが個人的な楽しみの追求を妨げる理由にはならないと思うので(異論はあるだろうが)、アカヤシオの花を見に国見岳へ出かけることにした。2011年5月21日(この年は東日本大震災があった)に、国見尾根を登ってヤシオ尾根から下りたことがあったが、そのときはアカヤシオはほぼ終わっていて、シロヤシオが咲き出していた。今回は逆にヤシオ尾根を登って国見尾根を下ることにした。
名神の竜王ICから477号線をたどって鈴鹿スカイラインに入る。明日からは雨の予報だが、今日は天気がよい(だから出かけてきたのだ)。新緑の山の景色は気持ちよい。武平峠トンネルを越えたところの駐車場で休憩する。期待通り、鎌が岳にアカヤシオが点々とあるのが見える。スカイラインを下ると、中道登山口近くの新しくできた駐車場にたくさんの車が見えた。平日だが花のシーズンなので登山者は多いのだろう。蒼滝トンネルを抜けたところの裏道登山口の小さな駐車スペースはいっぱい、その下の蒼滝大橋を渡ったところのやや大きい駐車スペースには数台の車が止まっていたが空きがあった。車を止めて準備をする。女性二人組が出発していった。私も続いて出発する(9時20分ごろ)。
川(北谷)の右岸を登って行くと、対岸に新しそうな建物が見えた。日向小屋である。2006年10月13日に御在所岳から裏道を下りたときには、この小屋のすぐ前を通った記憶がある。日向小屋は2008年9月に土石流で壊れ、2013年7月に再建オープンしたそうだが、すぐ上流に新しいダムができたせいで登山ルートから外れてしまったようだ。道はダムの右岸側を高巻いている。取り付きに、ダムの方向を指して近道と書いた看板があったが、怪しそうなので巻き道を登る。ダムを越した道は丸太の橋で左岸に渡り、しばらく行ってまた丸太橋で右岸に戻る。その先に藤内小屋がある。
藤内小屋も日向小屋と同じく破壊され、2011年に本格再開したらしいが、同年5月に通りかかったときはまだ修理中だった。小屋の前にはアベックがいるだけで、男が女の膝枕で寝ていた。バテたのかもしれない。藤内小屋で川は二手に分かれ、左の谷が裏道である。二つの谷の間に国見尾根の道があるが、右の谷の右岸を行く。この辺りは少しややこしいが立派な道標があって分かりやすくなっていた(以前にはなかったと思う)。やがて岳不動尊への分岐(左)がある。この道は北側から国見尾根に登っているが、現在は通行禁止になっている。右へ、腰越峠方面の道を取る。ここで川を渡ると三嶽寺跡で、石段を登った鐘突堂跡にまた分岐があり、左へ曲がる。ヤシオ尾根の端をトラバースするような道である。しばらくして腰越峠への道と別れて左へ、尾根に取り付く。
アカヤシオがぼちぼち出てくるが、思ったほどの数ではない。むしろ、左手に見える国見尾根や右手のハライドの方が多そうだ。しかし、登るにつれ花が増えてくる。急だった道がなだらかになり、県境尾根が近くなる。右手から若いアベックが近づいてきた。ブナ清水方面への分岐の道だ。合流点で女性は私の来た方へ曲がろうとするが、男性が「キノコ岩はこっちだよ」と逆方向を示す。私は二人の後についていく。右手に丸っぽい白い岩があり人がいた。アベックがそっちへ曲がったので私も行ってみる。そこはキノコ岩ではなかったが、登るとそれまで木々に隠されていた眺望が開けた。すぐ左手にキノコ岩が見える。眼下に広がっているのは枯れた茶色い木に覆われた緩い斜面だが、アカヤシオの花がところどころ滲んだように薄い赤に染めている。
キノコ岩にも行ってみる。大きな岩の上にキノコ状の変な突起がくっついている。この辺りになると登山者が多く(ヤシオ尾根の登りには誰もいなかった)、入れ替わりに狭い岩場に取りついてくる。単独行の男の人(中高年)にキノコ岩を入れて写真を撮ってもらった。
もう国見岳は見えているので、最後の登りにかかる。アカヤシオが群れているようなのだが、登山道からは見渡すことができない。青岳経由で頂上へ。見晴らしのきく少し離れた岩で昼食をとる。ここからは北斜面のアカヤシオが見渡せる。まるでピンクのうろこ雲のようだ。正面には釈迦が岳。
隣には団体さんが二組いて、いずれも中高年男女。一つの組がにぎやかに話をしている。聞いていると、しょっちゅう山へ行っているらしい。次の予定には誰が参加するのか調整をしていた。あまりに念入りなのでうっとうしく思えるくらいだが、私がとやかく言うことではない。何にしろ、熱中できるものがあるのは喜ばしい。
食事をすませ、景色も満喫したので、下山にかかる。石門に寄ってみると、上に誰かが乗っているので、私も登る。最初に会ったアベックと、キノコ岩で写真を撮ってくれた男の人が話をしていた。アベックが岩を下りる際に、今度は子供を連れてきなさいと男の人が言ったので、二人は夫婦のようだ。その男の人が話しかけてきたので、しばらく相手をする。三重県境に近い愛知県に住んでいて、鈴鹿にはよく来るらしい。今日は武平峠に車を置き、御在所岳を越えて水晶岳まで行ってきたとのこと。
男の人と別れて先に岩を下りる。すぐに国見尾根の分岐がある。尾根を下って行くと天狗岩とユルギ岩がある。ちょっと取り付いてみたが、怖いのでてっぺんまでは登らなかった。さらに下る。この尾根はかなりの急傾斜である。左(北)の斜面にはタムシバが咲いていて、その白い色がアカヤシオの赤と混じってきれいだ。登ってきた単独行の男の人(またまた中高年)と話をする気になったのは、この景色をともにめでてみたかったからだ。話しているうちに何だかおかしいと思って、よく聞いてみると、彼は自分がどこにいるか分かっていなかった。ロープウェイ乗り場に車を置いて御在所岳を目指したようなのだが、いつの間にか国見尾根に迷い込んだらしい。ガイドブックのコピーを持っていて、そのページの地図には中道や裏道はあるが国見尾根のルートは記されてなかった。彼は5時に神奈川の家を出て、10時半に登り出したとのこと。アカヤシオが目当てというのではなく、二百名山が目的。ここからなら、国見岳から御在所岳に回ることになるのだろうが、遅くなればロープウェイで下山できるから心配あるまい。
彼と別れて下りながら、彼がどこで間違えたのか考えた。この山域の道は錯綜していて分かりにくいのは確かだ。彼は小屋のところでコースが分かれていたと言った。ガイドブックには中道登山口に御在所山の家があると記載されているはずだから、正しいコースを来ていると思い込んだのだろう。たぶん、その小屋は藤内小屋だったのだ。中道へ行く途中で裏道に入ってしまったのだ。下調べは重要なのだけれど、やはり実際に行ってみなければ分からない部分はある。
藤内小屋に戻ってくる。県境尾根で見かけた男性二人組が休憩し、小屋の関係者らしい別の二人が世間話をしていた。二人組に続いて鈴鹿スカイラインへ向かう。日向小屋手前のダムで、近道というのを確かめてみようと岩の目印にしたがって河原を進む。ダムは真ん中が鉄パイプでできていて、通り抜けられた。河原から日向小屋へ橋がかかっている。
車に戻ったのが3時半ごろ。石門の上にいた男の人に、ここから一番近いのは希望荘だと教えてもらっていたので、そこへ行って入浴した。車を停めた山上館から風呂のある本館まで私設の小さなケーブルカーを使うのにはびっくり。
再び武平峠を越えて、来た道を帰った。