井本喬作品集

夏の終りに

  僕はその頃、「親族の基本構造」と「聖ジュネ」を読み、その言葉がしみ入るようだったため、今、この思想形成期にこれ等の書物を得たことが何ものかの摂理によって予定されていたかのごとく感じた。僕の得たものがあまりに華やかであったため、僕の糞さえも真珠をちりばめたものが出るのではないかと思ったくらいだった。

 木々の緑はまだ失われず、朝顔や葉鶏頭が残っていても、空や雲に何の変化の気配は見られなくても、もはや夏は終るのだ。
 白い光の中を歩いている僕に、風が教えなくても、全てのものの中に終りが感じられるのだ。

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