海
海よ
今お前は私に対して無力だ
いかにほえたて、荒れ狂おうと
お前の手は私の足もとに届かない
確かにお前の力は偉大だ
岩をくだき、土を運び去る
お前の単調でしつような攻撃の前には
何者もひれ伏さずにはいられない
いつかお前は油断した私を捕らえるかもしれない
のんびり水面に浮いている私を
もの思いにふけって浜辺を歩く私を
お前の手がかっさらい、ひきずり込む
お前に比べるべくもない私の非力さ
だが今はお前は空しく私の前で倒れている
ひき下がっては身を投げる動作をくり返すだけ
私は卑小な喜びでそれを見ている
偉大なお前の無力さをあざ笑っている
少なくとも今は、今だけは
お前も私に触れることが出来ない
そのような時があることを
私は感謝しているのだ