井本喬作品集

出されなかった手紙

 僕は君に迷惑をかけたくはないのだけれど
僕は僕という存在の支配者ではないのでどうしようもないのだ
かつて僕は自分自身を完全にコントロール出来るものだと信じていた
しかし僕の存在はしゃらくさい自我などと同一視されるものではなかった
僕という意識を超えたもの
欲望なんてちゃちなものじゃない
もっと暗い力 いや力でもない
存在そのもの
世界は僕の存在の中にもあり
僕と世界の境界ははっきりしない
僕はむしろ受容者だ
責任逃れをするつもりはないけれど
(結果はむろん引き受けるつもりだし、引き受けざるをえないのだから)
僕には僕自身が分からないのさ

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