ヘルペスと聖痕
十年以上前から単純ヘルペスにかかっている。最初、右手の親指の付け根の辺りにかなり大きな水疱ができたので、皮膚科に受診したら、単純ヘルペスと診断された。放っておけば水疱は治るけれども、ヘルペスウイルスは神経に潜んで根絶できないので、再発を繰り返すと言われた。言われた通りに、何か月か間をおいて再発している。私自身に自覚はないが、免疫力が落ちたときに出てくるようだ。
まず、右腋のリンパ節がわずかに痛み、右腕の内側にかすかな赤い線が浮き出てくる。発症した神経が見えているのだろう。次に毎回同じ場所(親指の付け根、ちょうど手のひらと腕の境のやや上)に小さな発疹のようなものが発生し、それが拡大して1cmほどの水疱に拡大する。ぶよぶよして、中には膿がある。放っておいてもいいのだが、何かに触れて破れてしまうこともあるので、故意に破って膿を出すこともある。破った皮の下には1mmほどの小さな円(これも水疱?)がいくつかできている。これが赤くなり(かさぶた?)、かたまって、自然に剥がれ落ちれば皮膚は元に戻る。
当初は水疱ができる度に悩まされたが、だんだん症状は軽くなり、何もせずに放っておいても気にならなくなった。不思議なことに、水疱のできる場所が徐々に手のひらの中の方へ移動していて、いまは手のひらの中心にある。
(ところで、単に手といえば、腕と手を合わせた肩から先の全体を言うこともあるし、手首から先だけを指すこともある。手のひらとは手首から先の手の内側であり外側は手の甲となる。手のひらには指も含まれるはずだ。では、指ではないところの手は何と言うのだろう。私がいま言っている中心とは、その部分の中心である。)
手のひらの中心で赤い小さな丸が重なって一つのいびつな円形となっている。もうすぐ剥がれ落ちるのだが、しつこく残っている。見ているうちに、イエスの手の釘あとの位置に思えてきた。
もしかしたら、聖痕と言われていたうちのいくつかはヘルペスによるものではないか。聖痕の位置は左右の手足と脇腹の5か所らしいが、手のひらは一番目につきやすい。単純ヘルペスは突然現れ(本人には前兆が分かるようになるが)、人為的ではなく、しばらくすると消える。そして、たびたび出現する。唇や性器などに現れると病気と受け取られそうだが、手のひらなら何かの印と思い込んでも(あるいは思い込ませても)おかしくはない。
聖痕が5か所同時か、手足なら両側に同時に現れねばならないものなら、この説は成り立たない。しかし、1か所であってもいいのなら、多少は説得力があるのではないか。